好きで強くなったわけじゃない

処女膜強靭症についての話

手術②

 

麻酔から覚めると、すべてが終わっていた。

 

正確に言うと本当にすべてが終わっていたわけではない。

依然足ぱっかん状態で診察台の背もたれにもたれかけている。

周囲では先生や看護師さんたちが片づけをてきぱきと行っている。

 

目は開いたが、手足にはまだあまり力が入らない。

看護師さんが、「終わりましたよ~大丈夫ですか~」と尋ねてくる。

先生も「無事に終わりましたんでね、安心してくださいね」と言う。

 

ほっとした……のも束の間。

 

「でもちょっとね、追加の手術をしました。

外側の皮膚も少し切りました」

 

なんやて。

 

寝耳に水というほどのことではないが、

寝耳にゆっくりぬるま湯くらいには驚いた。

 

先ほどの記事に書き忘れていたのだが

手術前に説明の追加があったのだ。

 

私の場合、初診でちゃんと診察できなかったので

麻酔をしてから、改めてちゃんと調べることになる。

処女膜強靭症なのは間違いないが、もしかしたら

先天性の膣内の奇形(膣が二股に分かれている等)があるかもしれない。

通常はそういう点を事前の診察で確認するのだが、

私の場合はできていない。

 

また、入り口あたりの皮膚がつっぱっている感じなので

それを切らないと、中の粘膜である処女膜を切除したとしても

性交時の痛みが残る可能性がある。

そういった場合、処女膜切除以外の追加の手術が必要になる。

ただそれもよく調べてみないと判断できない。

 

これらのような強靭症以外の要素が見つかった場合、

追加の分を同時に行うかどうか?

 

という話である。

 

私は迷った。

できれば一回で済ましてほしいが、

問題は費用である。

 

手術には保険適用がされていない。

追加もするとなると、費用が当初の約2倍にもなる。

数字をはっきり書くと約15万円の追加である……。

 

お高い!

 

定期預金 解約

という文字が頭に浮かぶ

 

無理むりむりぽよ。

でもせっかく手術しても痛いままとか、

また改めて手術とか、しんどい。

いろんな意味でしんどい。

 

けどこれ以上お金がかかるとか、それもしんどい。

保険適用してくれるところを

もっと時間をかけて探せばよかったのかもしれないけど、

実際に行って診察→パニックで精神的にダメージ

を繰り返してまで探す気にならなかったのである。

 

それにこの先生のように「できるだけがばがばにする」レベルまで

保険適用で対応してくれるのだろうか?

必要最小限度と医師が判断した程度にしか切除してくれないのでは?

という不安があった。

なにせ今でも処女膜強靭症について診断できる医師は少なく、

保険適用するレベルかどうか判断するのはさらに難しいという状況なのだ。

まだ学会等に上がっている症例報告が少ないのであろう。

 

いったいどうしたら……と悩んでいると、

となりにいた母が「いいのよ、追加しても」と言った。

 

「え?」

「追加の分はお母さんが出すから。安心して」

「でも……いいの?悪いよ。申し訳ないよ」

「いいのいいの」

 

とてもありがたかった。

 

でも、追加がないことを願っていた。

 

だから術後、追加があったことを知らされたとき

びっくりしてしまった。

 

外側の皮膚を……ちょこっと切って縫っただけで

約15まんえん……医療とは……国民皆保険とは……

と麻酔が残って働かない頭でまとまりもなくぼんやり考えた。

こりゃー健康保険はそりゃ必要だわ。

という変な納得が残った。

 

 

看護師さんが補助してくれて、別室のベッドでしばらく横になる。

先生からすでに術後の説明を受けたらしい母がやってくる。

 

「お母さん、ごめんね。追加のお金、申し訳ない」

私はとても情けない気持ちだった。

もういい大人なのに、ということが今回の件では続いている。

 

「いいのよいいのよ、痛くないようにならないと、意味がないもの。

それに一回で全部やって、嫌なことは早く済ませたほうが安心でしょ」

 

母はそう言ってくれたが、私はそのあとも何度も謝った。

 

しばらく黙ったあと、母はぽつりと言った。

「お母さんがね、ちゃんと生んであげられなかったんだから」と。

 

母はそのように考えていたのか、と初めてわかってショックを受けた。

同時に、謝りすぎたせいで

そのようなことを言わせてしまったのかも、と思った。

 

私は自分の不甲斐なさや思慮の足りなさを悔いた。

 

それに、ちゃんと生んであげられなかった、というのはおかしい。

何か子どもに異常があったとしても、母親の生み方の問題ではない。

遺伝子の組み合わせ、あるいは細胞分裂の些細な間違い。

詳しいことはわからないが、母親のせいなんかではないのはわかる。

 

でも昔の人にはそういう考え方が根強いのだ。

若い世代でもそういうことを言う人もいる。

お腹で育てるのが女性、というだけなのに。

もし現代の技術がもっと進歩していて、

たとえ私が人工子宮等で完璧な管理のもとに育っていたとしても

同じだっただろう。

 

「そんなの絶対に違うよ」

 

 

そこに先生がやってくる。

「お母さま~お腹すきませんか?これよかったら……」

と水ようかんとスプーンを持って。

 

なぜ

水ようかん。

 

夏だから?まぁ夏のおやつにおいしいよねうん。

術後に先生はきっと甘いものでも食べようと思い、

そして「あ、お母さまにも持っていこうかしら」と

思いついたのであろう。

 

「あなたは?あ、あなたはまだ食べられないか~」

笑う先生。

 

先生……(言葉にならない何か)。

 

そのあといろいろ言われた。

「あなたって麻酔に強いのねぇ!」とか。

事前麻酔の増量があったからだろう。

 

「追加の手術もあったけどね、

これでもう本当にすっごく広がったからね!

これからは気持ちよくなれるといいわね。

やっぱりね、セックスというのはお互い気持ちよくないと」

 

先生、母の前なのにもう完全にいつものモードに戻ってる。

 

 

あとから母に聞いた話によると、

母への術後の説明でもすごい説明の仕方をしていたそうだ。

 

「お母さま、ご心配なく。三本入ります」

「三本って、指ですか?」

「違いますよぉ~あれの三本です!三本!」

と、指を三本びしっと立てて強調したそうな。

 

うそやろ。

さすがに三本はないやろ。

ていうか三本入れる必要ある?

まさかとは思うがそういうプレイまで先生は想定してるの?

先生……。

 

母は話をしながら大爆笑していた。

あんな先生見たことない、と。

たしかに。私も見たことなかったです。

 

このクリニックはとても人気があって、

一週間分の予約が一瞬で埋まってしまうほどだ。

なぜかなぁと正直思っていたけれど、

先生の人柄なんだろうなぁと思った。

こういう先生だと、いろいろあけすけに相談できていいような気がする。

 

そして看護師さんの配慮と優しさ。

絶妙なチームワーク。

 

お金はかかってしまったし、母にも申し訳ないが

ここで手術をして、まぁ、よかったかな……。

 

 

 

 

術後の痛みは、一週間ほどでだいぶおさまった。

三日ほどは座薬を入れないと横になっていても痛い、

という感じだったが、その後は

傷の箇所に体重をかけなければそんなに痛くない、という感じ。

 

一週間後の検査では、ぐりぐりやられた。

中に器具をつっこんで、ぐりぐり回すのである。

癒着を防ぐために広げるのである。

これも痛かったが、処方されている鎮痛剤が効いていたのか、

パニックになるほどではなかった。

 

そして数日前、術後一か月の検査を受けてきた。

経過は良好で、癒着もなく、傷口の治りもきれいだそうだ。

「ほらこれ子宮口。見える?

ばっちり子宮口まで見えるくらいに広がりましたからね」

と壁の画面を見せながら説明してくれる。

 

いや別に子宮口まで見せてくれなくていいです……

という思いが強かったのでちらっと見ただけで、あとは見なかった。

 

癒着が心配だったので、とりあえずよかった……と思ったが、

最後にまたぐりぐりやられた。

「一応やっとこうね~」というノリである。

 

チェックし終わったんだからもういいんでない!?

と思ったが、この先生ならなんとなくやる気がしていたので、

驚きはしなかった。しかし痛みと恐怖でまたパニックに。

 

症状は初診ほどではなく、吐き気が来るもえずいたらおさまったり、

手足の痺れや血圧の低下もさほどなく比較的早く起き上がることはできた。

 

でもぐったりしている私にかけてきた先生の言葉が、

励ましの言葉としては、またちょっとどうなのかというものだった。

「すごく広がったけど、あなたね、中は数の子だから大丈夫よ!」

 

かず……のこ……。

 

「数の子天井って知ってる?

うーん何て言うかね、ひだがたくさんある感じでね。

やっぱりね、お互い気持ちいいのがいちばんだから。

あ、いや、いちばんってことはないか。

とにかくいいことだから~」

 

先生、いろいろ先のことまで考えすぎじゃない?

まぁその、仲良くなれるほうがあなたにとってもいいことよ☆

的な感じで話しておられるのはわかるのだが、わかるのだが。

 

 

 

 

 

以上でとりあえず記録は終わりです。

先生がいろいろな意味で盛り上げてくれた気がします。

 

まだ性行為には不安や恐れがあるし、

術後一か月経ったらしてもOK、と言われているけれど

まだたまに傷の痛みを感じたりするので

機会が訪れたとしてもあと一か月くらいは待ちたいなと思っています。

 

目下、機会を運んできそうな人について、

普通サイズだったらよかったのにな、というのが悩みの種です。

 

神はさらに私に試練を与えたもうた。